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制作の流れと、絵を描くことに対する思い

ヘッドフォンを身に着けて、音楽プレーヤーをポケットに忍ばせて、


音楽を大音量で体に浴びせることから始まる。


曲はその時々で違うが、ランダムで聴いてみて自分の体が自然に反応する曲を選ぶ。


その時に自分の心の扉を強くノックする曲を選ぶ。


時にはビールでも飲んで心を柔らかくする。


音に合わせて体を動かす、というか自然に体が動くので、


流れに身を任せるように体を、心を震わせる。


しばらくすると、体と心が解放されるような気分になる。



真っ白なキャンバスに向かう時間だ。



僕は基本的に完成のイメージを持たない。


人間の想像力は偉大だ。


現実には存在しないものでも、想像の中においては創造できる。


想像をし、その目標に向かって限りなく近づく行為もまた美しいものがあるだろう。



だが僕は違うやり方で絵を描いている。



出来る限り頭の中を真っ白、空っぽにして、


まず始めに色鉛筆やペンや絵の具など色々な画材と水を使って、


真っ白なキャンバスに、まとまりやバランス等は気にしないで、


キレイか汚いかなんかは意識しないで、


自分という存在が持ちうるありったけをぶつける。


するとそこには混沌が姿を現す。


これは、世界なんだ。



その流れの中で、ほとんどの場合、木炭で沢山の線を引く、沢山の線を引く。


この沢山の線は、道なんだ。



キャンバスが混沌で溢れた時、作業は一旦休憩に入る。



絵の具が水に溶けている、キラキラとした生命力を感じる。


制作者だけが立ち会える、至福の瞬間。



作業の再開は、キャンバスが乾くのを待って、


まずはキャンバスをじっくりと眺めることから始まる。


目の前で一体何事が起きているのかを見て、感じて、どの線を選ぶか、


自分の魂がどう反応するのか、そこに神経を尖らせる、アンテナを張る。



色々な線の組み合わせから、心が、魂が反応する線を選ぶ。


時には自分でもハッとする様な、ゾクゾクとする様な線の組み合わせに出会う事がある。


偶然と偶然が重なって、奇跡になる瞬間であり、


また一方では必然であったとも言える出会い。



線が決まったら、その線を境として、背景となる部分を絵の具で塗りつぶす。


完全な単色の場合もあるが、大体は幾つかの色を混ぜた、暗い色で塗りつぶす。



すると、それまでは混沌の中に浮遊していたそれが、色の対比によって、


えぐり取られるように、ひとつの”存在”として、目の前に強烈に浮かび上がってくる。



そして、その存在をよりハッキリと、どっしりと、僕の魂が納得するその瞬間まで、


木炭などを使って最後の化粧をする。



その時々によって大いに寄り道をしたり、全く別の手順で作業することもあるが、


大体は以上のような流れで作品が生まれている。


何時の頃からだろう、自然とこのスタイルになっていた。


理由は自分でも分からない。ただ、絵を描くということと、


生きることが僕にとって同じように思えてならない。


絵を描くことが、ひとつの儚い人生を歩む事と、重なって見える。



一寸先は本当は誰にも分からない。


いくら科学技術が進歩したところで、誰にも分からない、


僕らはそういう世界に生きている。


だから僕らは、どんなことが起きてもそこから立ち上がり、その経験を生かして、


前を向き、生を充実させようと闘うのだろう。



絵だって同じだ。


制作の過程でうまく行かないと思うことは幾らでもある。


その都度壁にぶつかり、もがき、あがいている。


でも生ある内は、いずれ突破できる。


それを信じて立ち向かうしかないと思っている。


一枚にひとつの人生。



そういう想いで、絵を描いています。



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